【備忘録】10年以上尾を引いた失恋の話

 フリー画像「血涙」

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〇諸注意

 大した潤色を加えてません。即ち、当事者なら分かってしまう内容です。何処で誰が何時見ていて、誰と誰が繋がっているのか分からないとはいえ、大騒ぎしないようお願いします。
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〇本編

 これは、現在(2023年8月15日)より10年以上昔の話……

 

 中学受験に落ちた末、心を塞ぎ込んでしまった12の俺は、受験戦争に散ってしまった自らに捧げる弔い合戦かの如く、勉学に心を燃やし続けていた。

 

 落ちた末に行くことになった公立中学において、定期考査でも、業者テストでも、とにかく校内順位3位以内を守り続けた。

 しかし……

 1位を獲ろうが、満点を獲ろうが、中学受験に受かった世界線にいる、理想としていた自分に追いつくことは叶わない。

 

 色々なことに手を出し、青二才なりに藻掻いたが、満たされることはなかった。

 悲しいことに、その幻の志望校は、中学受験以外に入学する道が無かったのである。

 

 はじめは帰宅部を希望したが、それでは心の狭い人間になると両親に止められ、一番練習時間の短い卓球部に入部。
 

 部活3:勉強7といった学校生活だった。

 学校生活において発生する、様々なストレスを勉強に昇華した。

 

 だが、その勉強でさえも、勤しめば勤しむほどに、自分の散華した中学受験での精神的負債を増幅させてしまう、デススパイラル。

 

 晴れだろうが雨だろうが、朝だろうが夜だろうが、夏だろうが冬だろうが、心の中はいつも真っ黒で、寒かった。

 

 桜の咲かなかった、文字通りの「沈黙の春」が、悪夢の方がまだ良かったと思える、不合格宣告から、ずっと後を引き続けていて、終わる兆しが無かった。

 

 だが、高校受験が近づくにつれて、当時の俺は、次第にこの溜まり溜まった負債をこの場(高校受験)で返そうと、前向きになれたのである。

 

 同級生の存在は大きかった。

 そこそこ頭の良い部類であるため、勉強を教えてもらいに来る同級生のお陰で、承認欲求を満たすことが叶ったのである。

 

 また、公立中学とは言えど、一人一人のアイデンティティを尊重してくれるその校風は、非常に心地がよかった。

 

 荒んだ心は次第に平穏に、沈黙の春は次第に歓喜の夏に向かって行った。

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 しかし、ある時ある期間を境に、下り坂に差し掛かる。

 中学2年の後期、いわゆる3年0学期と呼ばれる時期から、校内恋愛が流行り出したのである。 

 普通なのか異常なのかは測りかねるが、学年の生徒の3人に1人が、彼氏彼女のいるような状況だった。

 それも、心からお互いに信頼関係を築いている純愛と客観できたのは一握り。

 

 「来たるべき受験から目を背けて、カレカノと一緒に現実逃避しましょー!」といったカップルが溢れたのである。

 その事実を目の当たりにして、吐き気を催した自分は、恐らく性徴が周りより遅れていたのかもしれない。

 

 それらをきっかけに、男子高への進学を強く希望するようになった。

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 両親には止められた。

 帰宅部への入部を止められた時と同様、異性と言う存在を遮断してしまうことで、視野の狭い人間になりかねないという理由だった。

 そして、在住していた県内には当時、そもそも男子校が存在しなかったのである。

 

 両親の反対は、ここにも理由がある。

 

 だが、条件付きで、OKを貰うことが叶った。

 

「この家を出て男子校に通いたいのならば、この県内での最高偏差値を越える高校への合格通知を獲得しろ」

 

 親父にそう言われた俺は、勉強方法を切り替えた。

 当時、県内の最高偏差値の公立高校は、偏差値73・・・

 

 だから、74~76の高校(男子校)を4校選んだ。

 いずれも、全国的に有名な学校ばかりである。

 

 ちなみに、県内最高偏差値の学校においては、中2の時点で、既にS判定を獲得していた。

 偏差値の高さは最低条件で、この男子校4校は個性を尊重し選んだ。

 

 4校とも、第一志望だった。
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 ~~~諸々端折る~~~

 

 結果、その4校に全落ちした。

 手ごたえはあったと踏んでいたのだが、そもそも層が違う。

 

 全然別の地域にある学校を、同じ物差しで測っていた。

 その時点で、当時の頭の悪さがうかがえる。

 

 当時の俺は、勉強の良しあしと、頭の良しあしは次元が違うことにすら、気づけていなかったのか。

 

 それが、中3年明け2月初旬のこと……最後の要である公立入試まで、残り3週間ほどだった。

 4つあった第1志望をすべて失い、もう完全に人事を尽くしていた。

 頭の中が真っ白。

 

 自習時間も、ペンを持っているだけで終わった。

 県外の高校を受験したことは誰にも口外しなかったため、孤独だった。

 

 そんな時……

「あたしと同じ高校行こ?」

 

 彼女は、隣のクラスにいた女の子「サクラ」

 良くも悪くもない仲だったが、快活で気丈で、満ち足りた女の子であり、陰キャラの自分にとっては、高嶺の花のような存在だった。


 高嶺の花が、急に目の前に咲いたのである。

 既に、県内トップ高への出願は済んでいた。

 

 だが当時は丁度、出願した志望校を、変更できる期間内だった。

 トップ高は、行くつもりも受けるつもりも無かった。

 

 正確には、行くつもりの無くなった「第0志望」だったからである。


「行く」

 瞬時に心を決めた俺の、抜け殻となっていた受験戦意に、再び炎が灯った。
 サクラが灯してくれたのである。

 

 両親は、志望校変更に納得してくれた。

 その時話した理由は適当なこじつけであったが、恐らく内に秘めた本気と闘志を推し量ってもらえたのだと思っている。

 

 彼女が志望した高校は、トップの高校と比べて、3~4ほど偏差値を落とした学校である。

 不合格可能性はほぼ0に近いと判断した当時の自分が立てた目標は「首席合格

 

 約3週間、彼女とともに、勉強に勤しんだ。

 

 俺はもちろん彼女を「女」としてではなく「戦友」として接した。


 本音を言うと、彼女に対しては恋愛に近しい感情を抱いていたが、俺はそれを逆手に取り、自己研鑽の手段として利用したのである。

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 ……

 ……

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 もう、オチに察しがついている方もいるだろう。

 

 結果、俺は合格したが、首席合格は取れなかった。

 それだけならまだしも、、、彼女は不合格だった

 

 首席合格は取れず、高嶺の花も散ってしまう、執拗なダブルパンチ……

 彼女がいるからこそ、この高校を受験したのである。

 彼女がいないのならば、本末転倒であった。

 

 結果、合格はしたものの、受験には失敗してしまった。


 3年前の中学受験での敗北が、さらに拍車をかけた。

 こんなことならば、初めからトップ高を受験しておけばよかったのではないか。

 もっと早く、県外への進学を視野に入れていたら良かったのではないか。
 
 ・・・

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 たら、ればばかりが錯綜する、沈黙の春に引き続く、地獄の春だった。

 彼女は、俺とは目を合わせず、会話もなくなり、別世界の人間になった。

 合格した立場とあっては、フォロー出来ない。

 

 無言、無視、沈黙を決め込むその有様に、俺は腹立たしさを痛感したのを覚えている。

 当時、感情に任せ、まるでストーカーのように、電話やメールを送り付けたが、返答は無かった。

 

 結果、暫くの間、女性を、加えて女性にうつつを抜かしていた自分を強く軽蔑するようになった。

 

 だがその腹立たしさは、大切な戦友として彼女を高く信頼していたことによる、レバレッジによるものだった。

 忌まわしき中学受験敗北以降のたゆまない努力は、形式上実ったが、桜は咲かない。

 

 あの時代の葛藤を思い出す度に、当時の自分が不憫で不憫で、涙が流れる。

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〇後日談

 彼女と俺の関係は、察されていたかもしれないが、公にはなっていない。

 戦友「サクラ」について、彼女と仲の良かった友達に、それとなく話を聞いてみた。

 すると、知らない情報が得られた。

 各試験における、校内での平均順位が15位~4位くらいの上位層を中心に「1~3位打倒グループ」という派閥があったらしいのである。 

 

 それはあくまで名目だけの勉強サークルに過ぎなかったが、戦友となった彼女は、彼らの勧誘を頑なに蹴っていたという。


 1~3位なんて眼中にないよという意味だったのか……それとも、その逆か。

 

 よく考えれば、彼女は中学3年間、ずっとその学園を志望高として設定していたのである。

 

 それを、3週間前に志願先変更したような俺が、合格を手にした。

 もし、彼女の立場なら、合格を横取りされたような気分かもしれない。

 事実、俺が彼女を蹴落としたのかもしれない。

 それなら、俺の存在が恨めしく、忌まわしいかもしれない。

 

 いや、忌まわしいだろう。

 
 あくまで、推測憶測にすぎないのだが。。。 
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 月日が経ち、同窓会を迎えた、20の冬。

 

 彼女は現れなかった。

 人づてに聞いたら、遠い街で、母親になっているとのこと。

 これからも、俺は消えた彼女を想い続けるのだろう。

 人生の墓場を迎えたのは、俺の方だった。

 

 この世にもあの世にも、、、俺が愛した戦友は、もういない。

 

 

 

 10年以上尾を引く失恋の話 完
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〇更新記録

・2023年8月15日 記載

・2024年2月28日 更新

・2024年4月22日 更新

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