(未)【備忘録】亡くなった同級生

 フリー画像「涙」

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 昔、交通事故によって、同じクラス、それも席がすぐ前の同級生が亡くなった。

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 中学1年、それも終わりかけの時の話。春休みまで、あと2日だったと記憶している。
 

 その日、俺は残雪に滑って派手に転倒し、遅刻寸前に教室に駆け込んだ。

 当時の俺は時間にルーズだった。 

 滑ったから遅刻寸前になったのではなく、遅刻寸前だったからこそ、焦って滑ったのである。
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 教室に入ると、何故か中3担当の先生がいた。HRも、その先生が担当だった。

 

 異例である。

 

 何かしらのイレギュラーで、担任の先生が対応できない状況にあることは、13歳の頭でもよく分かった。 
 
 中3担当の先生からは、生徒の1人が交通事故に遭ったらしいということだけ伝えられた。

 接触事故くらいにしか思ってなかったので、あまり気に留めなかった。


 だが、クラスの男が一人、いないことに気づく。

 ムードメーカーのようなポジションで、風邪をひくようなタマではなかったため、事故に遭ったのはそいつだと皆が察した。

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 イレギュラーはあったものの、皆あまり深くは考えず、1時間目~3時間目~給食~昼休み~4時間目と平然と過ごした。

 だが、4時間目終了後、副担任の先生より、5、6時間目が削れ、体育館に来るように指示が飛んだ。

 

 そこで、ほぼ全員が察したと思う。 

 だが、誰も恐れてそれを口には出せなかった。

 皆が、恐ろしい形相で顔を向かい合わせていたと思う。

 起こったのは、そのまさかだった。

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 1学年が全員、体育館に集合。

 そしてその日初めて、俺は担任の先生の顔を見た。

 いつも通りだった。

「あ、先生普通だわ」

 皆が安堵した。

 

 そして、交通事故に注意喚起を促す通知が配られた。

 

「午前〇〇時〇〇分ごろ、うちのクラスの〇〇が事故に遭いまして、それから病院に救急車で運ばれるってことがあったので、皆さん最低限気を付けているでしょうけども、今一度交通安全に気を引き締めて臨んでもらいたいという連絡です」

 

 それだけだと思った。

 しかし……

 

「○○は、午前、××時……××分………………

 

 3秒にも満たないこの沈黙は、長かった。

 

 ……亡くなりました」

 

 物凄い衝撃が、心臓を走り抜けた。

 先生の顔が苦痛に歪み、涙がポロポロと零れていた。

 

「もう、○○は帰ってきません……だから、○○の死を、無駄にしないように、これから……」

 

 寂しいことに、先生の言葉を一字一句は記憶していない。

 衝撃は鮮烈に覚えている。

 

 それが、奴の亡くなった当日の事だった。

 

 それからおよそ3晩。

 俺は魘された。

 

 奴の死んだ瞬間が、想像された。 

 

 

 

 

 

 

 風で飛ばされた反射板を取りに行き、

 

 奴が、友達を連れに来るかもしれないと。

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 その後、告別式の日程が組まれ、皆で参加した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 出会ってまだ1年経たず、決して親友とは言えない間柄だったが、同じクラスにいて、必ず1授業に1度はコミュニケーションを取ることになるような、憎めない奴だった。

 死んだと聞いた時、ショッキング過ぎて、何の感情も出なかった。


 その、心臓に楔を打ち込まれたような鋭く重たい衝撃や、涙をポロポロ流しながら、生徒にそれを報告する先生の姿は、今でも、心臓にも脳裏にも焼き刻まれている。

 

 それから……

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 奴があっちの世界に行って、足掛け12年・・・
 今になって当時の奴を振り返ると、凄く人間性の卓越していた男だったことに気づく。

 頭もよく、運動も出来て、コミュ力も高い。
 決して長けた部類ではなかったが、バランスの高さは素晴らしかった。
 奴は中1の時から、進路となる高校を、本質的かつ多面的に模索していた。

 中学受験の失敗に心を砕き、陰で荒ぶり、点数ばかりを追いかけていた思春期の俺とは、全くの大違い。
 生きていれば、大人物になっていたのではないだろうか……

 

 

 

 


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〇更新記録 
・2023年9月3日 記録
・2023年10月23日 更新
・2023年11月17日 更新
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